保湿剤「ヒルドイド」、規制は見送りに

2018.02.01

「ヒルドイド(ヘパリン類似物質)」という医療用保湿剤をご存知ですか?
アトピー性皮膚炎による皮膚の乾燥など、治療目的で処方される保湿剤です。
治療用の塗り薬なので、もちろん保険が効きます。

ただ、「美容目的の使用が増えているのではないか」と問題になり、
「公的医療保険の対象から外すべきではないか」
「処方量の制限を設けるべきではないか」
といった声があがっていました。

結論からいえば、こうした規制の導入は見送られました。

では、なぜ「ヒルドイド」を巡ってこうした議論が繰り広げられたのでしょうか。
きっかけは、健康保険組合連合会(健保連)が公表した報告書でした。

*参考*
「政策立案に資するレセプト分析に関する調査研究Ⅲ」
平成29年9月健康保険組合連合会
http://www.kenporen.com/include/outline/pdf/chosa29_01.pdf

この報告書では、次のようなことが指摘されました。
「数年前から現在に至るまで、美容目的で、『皮膚乾燥症』のレセプト病名でヘパリン類似物質の単剤処方を受ける患者が増加している可能性がある」
「美容に関心の高い女性の間で、皮膚科等に受診し『乾燥肌(皮脂欠乏症)』等の訴えにより『ヒルドイド』を化粧品代わりに処方してもらうことが流行している可能性が高い」
「ファッション雑誌や美容雑誌等において、過去10年程度にわたり『ヒルドイド』が美容アイテムとして紹介されている」

健保連は、健康保険組合の集まりなので、大量のレセプト(医療機関が健康保険組合などの保険者に請求する明細書のこと)を保管しています。そのレセプトを分析すれば、これまでにどういう病名でどういう薬が使われているのかがわかります。

そこで、健保連は、これまでのレセプトを分析した結果として、次のようなことも指摘しています。

  • 「皮膚乾燥症のみの患者に対するヘパリン類似物質の単剤処方」薬剤料は10億円強(2年分)
  • ヘパリン類似物質のみの処方額は、男性は約10億円、女性は約15億円
  • 「2014年10月~2015年9月」と「2015年10月~2016年9月」のヘパリン類似物質単剤処方のレセプト増加件数を男女(25歳~54歳)で比べると、女性は男性の5倍以上増えている

 

こうした指摘をうけて議論が行われたものの、当然、治療目的でヒルドイドを使っている患者さんは多くいます。
乳がんや卵巣がんの患者団体、日本皮膚科学会などは「保湿剤による治療を必要とする患者に大きな不利益を生じかねない」と、処方制限に反対する要望書を提出していました。
そして、このほど、厚生労働省は、治療目的以外の使用は保険の対象外であることを周知徹底するとともに、処方量の制限などの規制は見送ることを決めました。

予防や美容もとても大切なことですが、これらの医療にはもともと保険が効きません。
医療費の財源には、限りがあります。
そのなかで、治療を必要とする人に医療が届くよう、保険制度を守っていく必要もあります。
今回の議論は、そうしたことを改めて考えるよいきっかけになったのではないでしょうか。

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